Guess How Much I Love You
McBratney, Sam
Walker Books Ltd
2007-11-05






『どんなにきみがすきだかあててごらん』(原書は1994年)は、57カ国語に訳され、4800万部を売り上げているロングセラー。
私にとっては、個人的に、イースターの頃に読みたくなる絵本だ。
卵と並んでイースターの象徴とされるうさぎの物語で、イングランドの春を思わせる美しい野原が舞台だし、それに、「すき」がテーマの本だから。
「クリスマスは家族と、イースターは好きな人と」ということわざが、イタリアにある(この「好きな人」は正確には「一緒に過ごしたい人」という意味だけれど)。
南イタリアでは、イースターにシーズン初の海水浴に繰り出す人たちもいる。寒いロンドンでも、桜が満開で、ひなぎくやたんぽぽも咲き始める。子どもたちは色とりどりの卵形チョコレートを庭や公園で探す「イースターエッグハント」をする。春が来た開放感でいっぱいになるイースターは、やっぱり「好きな人と」過ごしたい。

絵本の中で野原をとび回るのは、大きなうさぎと小さなうさぎ。
2匹ともナッツブラウン色でおなかが白いふわふわの毛皮をしていて、長い耳と立派な後ろ足が特徴だ。いずれも「He」の代名詞で呼ばれるからオスらしい。
そっくり相似形だけれど、親子なのか、兄弟なのか、友達なのか、恋人なのか、師弟なのか、は書かれていない。

小さなうさぎは眠りにつくところ。でも、どうしても大きなうさぎに伝えたいことがあって、長い耳に向かって「ぼくがどれくらいきみのことがすきか、あててごらん」と語りかける。
そして両手をいっぱいに広げてみせる。
それに対して、大きなうさぎは、ずっと長い両手をいっぱいに広げてみせる。「でも、ぼくはこんなにきみがだいすきだよ」と。
2匹の競争は続く。

”I love you as high as I can reach," said Little Nutbrown Hare.
"I love you as high as I can reach," said Big Nutbrown Hare.
That is quite high, thought Little Nutbrown Hare. I wish I had arms like that.
「ぼくはせのびしてとどくくらい きみがだいすきだよ」とちいさなうさぎはいいました。
「ぼくはせのびしてとどくくらい きみがだいすきだよ」とおおきなうさぎはいいました。
ずいぶんたかいなと、ちいさなうさぎはおもいました。ぼくのうでが あんなにながかったら よかったのに。

そんな調子でやりとりをしていて、小さなうさぎは空の三日月を見上げ、「ぼくはおつきさままでいくくらい、きみがだいすきだよ」と言った後、葉っぱのベッドで眠ってしまう。
大きなうさぎはその寝顔を見ながら、ささやく。

I love you right up to the moon- AND BACK."
「ぼくはおつきさままでいって、そしてかえってくるくらい、きみがだいすきだよ」

作者のサム・マクブラットニー(1943〜2020)は北アイルランド出身の児童文学作家で、100冊以上の著書や戯曲がある。アイルランド・ダブリンの名門トリニティカレッジで歴史と政治学を学び、学校教師を20年間勤めた後に、作家業に専念した。
この本の企画は、専業作家になった頃、ロンドンの名門絵本出版社「ウォーカー・ブックス」の編集者から「絵本のための力強いストーリーを書いてほしい」という注文を受けたのがきっかけだった。
そして6カ月を費やして生まれたのが、およそ400語のこの絵本だ。作者自身が「すべての言葉が、存在意義を主張して闘いあっている」と表現するように、文章は研ぎ澄まされている。

一方でお話を彩るのは、優しい色づかいの水彩画。
イラストレーターのアニータ・ジェラムは南イングランドの港町ポーツマス出身、北アイルランド在住。夫は古生物学者で、家では猫、犬、うさぎ、カエル、トカゲ、ヘビ、カメなどを飼っている。夢は私設のサンクチュアリーをつくることだとか。
絵本に描かれたナッツブラウン色の野うさぎたちはかわいいだけではなくて、毛皮のやわらかさ、その下の骨の硬さや筋肉の動きを感じさせ、躍動感にあふれている。

表紙を開くと最初のページ(英語では「ハーフタイトルページ」)に、小さな題名表記に添えて、2匹の野うさぎたちが描かれている。大きな野うさぎが、小さな野うさぎを背中にのせて。
2匹は、小さな目で、じっと読者の方を見ている。
まるで、「あなたのすきなひとはだれで、どれくらいすきですか」と問いかけるかのように。

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