『ザガズー-じんせいってびっくりつづき』(原書は1998年)は、イギリスでは子育てをする親たちの深い共感を呼び、新しく親になった人へのプレゼントとしても人気がある絵本だ。
仲良く暮らすジョージとベッラのもとに、コウノトリならぬ郵便屋さんがある日、「小さなピンク色のとてもかわいい生き物」が入った小包を届けてくれる。
絵を見ると、オムツをした赤ちゃんの首から、「ザガズーというなまえです」という札が下げられている。
「ザグ(zag)」はジグザグのザグで、急な方向転換を指す。そして「ズー(zoo)」は動物園。
その名が予言した通り、かわいいピンクの生き物は、思いがけない方向へと変身していく。
ある朝突然、巨大なワシの赤ちゃんになっていて、夜な夜なおそろしい鳴き声をたてたかと思うと、今度はゾウになって、家の中をめちゃめちゃに壊す。イボイノシシになり、ドラゴンになり、コウモリになり、やがてまたイノシシやゾウになり…
手を焼いたベッラは、「せめて、ひとつのきまったものでいてくれたらいいのに」と言う。するととうとう、その願いを聞き入れたかのように、ザガズーは大変身する。
... one morning they got up and Zagazoo had changed into a strange hairy creature.
"Oh, no!" said Bella. "I preferred the elephant."
"Or even the warthog," said George.
Every day the creature went on getting bigger... and hairier... and stranger.
…ある朝起きると、ザガズーはモシャモシャ毛が生えた変な生き物になっていました。
「なんてこと」とベラは言いました。「ゾウのほうがよかったのに」
「イボイノシシだってまだマシだった」ジョージはいいました。
毎日、その生き物は、ますます大きくなり…さらに毛深くなり…そして、もっと不思議な生き物になりました。
その後の展開は、またもや、読者の期待を裏切る。そして、絵本は半ば強引に結論する。
Isn't life amazing?
じんせいっておどろきですね?
日本でも「魔の2歳児」などという言い方をするが、英語では「terrible two」という。3歳のことは「threenager」。その後も「terrible four」「fearful five」などと独自の表現を提案する親たちも少なくない。
子どもはある日、突然やってくる未知の生き物。
どんな風に育っていくかは、子ども本人にだってわからない。
この絵本に多くの親が共感するのは、「ある朝起きると」すっかり違う生き物に変わっているところではないだろうか。卒乳、発語、立って歩き出し、オムツはずしから、何度も繰り返す反抗期を経て、独り立ちするまで、変化は突然訪れるし、育児書通りにはいかない。
さらに、この絵本が鋭いのは、子どもだけではなく大人も、齢をとるにつれて思いがけない変化をしていくという事実を描いていることだ。
明日のわが子も、そして自分も、どんな風に変わっているかはわからない。予測ができないからこそ、育児も人生も面白いのだ。