芸術的な仕掛け絵本『イマジン』の作者、ノーマン・メッセンジャーによる架空の島の探検記だ。18世紀の博物誌のような趣で、動植物や地理について写実的なイラスト入りで解説している。絵本全体が、どこかに本当にこんな島がありそうだと思わせるくらい詳細な描写に満ちたファンタジーになっている。
島はときおり足が出てきて瞬時に移動するため(「ハウルの動く城」みたいだ)、島民は決して海に出ない。たとえば表紙になっているのは、島の海岸沿いに漂流している「航海の木」。
The powerful, erect Sail Tree is a boggling sight. They grow only on small wooden boats. I saw them all around the island and even attempted to board them but they always darted away at the last moment. They can sense when the island is ready to move to a fresh location and scurry to tuck themselves into the cliffs.
力強くそびえ立つ「航海の木」にはびっくりさせられる。この木は、小さな木製のボートだけに生えている。私は島の海岸のあちこちでこの木を見かけ、船に乗ってみることも試みたのだが、乗ろうとするとすっと沖に流れてしまう。島が新しい場所に向かって動き始める予兆を察知する能力があり、そんなときはすばやく島の岸壁の中に避難する。
さらには、島でしか味わえない美食の記録もある。「ジェリーフィッシュ」(ゼリーにそっくりのクラゲ)や、「チョコレートの木」(幹がチョコレートでできていて、イギリスで人気のチョコレート「アフター8」を思わせるミント味のクリームが中に入っている)などなど。
絵本としては文字数がとても多いのだが、その魔界には子どもも大人も同じようにひきこまれる。いつも、残りのページが少なくなってくるとさびしい。
探検記には、細い手書きの筆記体を模した独特の字体が使われている。作者自身が作ったオリジナルらしく「Messenger One」というフォントで、几帳面な博物学者のフィールドノートという雰囲気だ。
個人的には、私が通った横浜の中学高校で使われていた英語の教科書「プログレス・イン・イングリッシュ」の字体に似ていて、ノスタルジックな気分になる。
なお、島の探検の後に書かれた(という設定の)前書きでは、一人で航海していた「私」(文末には「ノーマン・メッセンジャー」と書かれている)が、偶然この島に出会って上陸した記録であることが語られる。
島との別れは、出会いと同様に突然訪れた。「私」が探検中にふと自分の船がまだあるかどうか不安になり、島で集めた木の実や鳥の羽を船に積んでいると、島は消えてしまっていた。
それでも「私」は言う。
How fortunate I was to have my mementos: the weird and beautiful seeds, lovely parrot feather, the exquisite kissing shells, the folded leaf, the cutlery set, my notes and sketches....
I hope this book will give some insight into the peculiar and mesmerizing encounters I had on this little island.
島の思い出になる品々を持ち帰れた私は、なんて運がよかったのでしょう。奇妙で美しい種子、素敵なオウムの羽、キスする魅惑的な二枚貝、折りたたみ式の木の葉、カトラリーの木から収穫したフォークやナイフ、そして私のノートとスケッチ……。
この本を通して、小さな島で私が出会った不思議な魔法のような発見に親しんでいただけたらうれしいです。
なかなか旅行に行けない今日この頃、こんな絵本で旅するのはとりわけ楽しい。