子どもたちが大好きな手紙をテーマにしたさまざまな絵本が、欧米でも日本でも出版されている。
前回は番外編で、がまくんとかえるくんの「おてがみ」へのオマージュとも言われるフランスで人気の絵本を取り上げた。
英国では、本物みたいな手紙や絵はがきを、本のページに貼り付けた封筒から取り出して読める仕掛け絵本も人気だ。
たとえば、抜けた歯をお金に変えてくれる「歯の妖精」と、妖精を待つ女の子の手紙のやり取りで展開する仕掛け絵本『Dear Tooth Fairy』。
そのほかにも、『ゆかいなゆうびんやさん』シリーズや、『サンタ・クロースからの手紙』など、本物みたいな手紙がページから飛び出す仕掛けの絵本は、いつもワクワクさせてくれる。
今回は、そんな中でも異色の傑作『Meerkat Mail(原題 ミーアキャットの手紙)』(2006年)。
ケイト・グリーナウェイ賞受賞者エミリー・グラヴェットの3作目で、見開きのページにフリップ状に貼られた本物のような絵はがきが楽しい仕掛け絵本だ。
主人公はミーアキャットのサニー。乾燥した暑い気候のアフリカ・カラハリ砂漠の平原で、大家族の一員として暮らしている。
ミーアキャットたちは、天敵のジャッカルの影に怯えつつ、いつも身を寄せ合って暮らしている。
Sunny comes from a large family.
They work together, play together, eat together,
learn together...
and sleep together.
サニーは大家族と暮らしている。
みんなで働き、みんなで遊び、みんな一緒に食べる。
みんなで勉強...
そしてみんな一緒に眠る。
絵のタッチは写実的だが、絶妙に擬人化されていて、ユーモアたっぷり。
このページは、めがねをかけた先生役のミーアキャットが、黒板を指しながら子どもたちに教えている。黒板にはこう書かれている。
REMEMBER!
A MEERKAT ALONE IS ON ITS OWN.
STAY SAFE, STAY TOGETHER!
(AND STAY AWAY FROM JACKALS!
忘れてはならない。
ミーアキャットは、ひとりでは生きられない。
冒険はだめ。仲間から はなれてはだめ!
(ジャッカルに 近づいてはだめ!)
サニーはそんな暮らしに息の詰まる思いがして、ある日、「親戚」であるさまざまな種類のマングースたち(実際、ミーアキャットもマングース科の動物なのだ)を訪ねる旅に出る。
両親に、「完璧な居場所を探す旅に出る…手紙を書くね」と書き残して。
そして、約束通り、行く先々から絵葉書を出す。
月曜日の訪問先は、コビトマングースのボブおじさんの巣。
サニーは、ミーアキャット一家のモットーは「Stay Safe, Stay Together」だと説明する。するとボブおじさんは、コビトマングース一家のモットーは「RUN AND HIDE(にげてかくれろ)」だと教えてくれたと、サニーは両親に向けた絵葉書に書く。絵葉書の端には、体の小さなコビトマングースの習性として、天敵に出会うと散らばって隠れて身を守るという豆知識が書かれている。
コビトマングースの巣に、サニーは大きすぎて入ることができない。
そこで火曜日は、縞模様のあるシママングースのいとこたちを訪ねる。サニーが書き送った2枚目の絵葉書には、やはり小さな活字で、昆虫を食べ、数日ごとに巣を引っ越しするというシママングースの習性が書かれている。
サニーはそこでシロアリに噛まれる。絵葉書も、シロアリにやられたらしく、虫食いの跡がある。
Sunny is getting itchy feet.
He decides it's time to move on!
サニーは 足がむずむずしたので、
次の目的地にむかった!
「get (have) itchy feet(足がむずむずする、かゆい)」というのは、どこかに出かけたくてうずうずしている様子を表現する慣用句。
絵には、サニーだけでなくシママングースの集団が家財道具を積んだリアカーを引いて引っ越す様子が描かれている。それから、常にミーアキャットやマングースを狙うジャッカルの影も。
サニーはその後も土曜日まで、毎日違う「親戚」を訪ね歩く。
「理想の地」を見つけることはできないまま、日曜日、ついに故郷に戻ってくる。
サニーが旅で学んだのは、故郷が一番だということ。
「冒険に出かけ、そして家に戻ってくる」という絵本の定番とも言えるストーリーは、旅に出ることの意義をも私たちに思い出させてくれる。
絵はがきの「印刷」された文と、サニーが両親に宛てたイラスト入りの手書きのメッセージ、それに本の中表紙を埋め尽くす新聞記事の切り抜きを含む文や絵を読み込めば、ミーアキャットと各種マングースの生態を細かに知ることができる。表情豊かな絵とともに、動物好きにはたまらない。
手紙と動物というイギリス人がこよなく愛する2つの要素が詰め込まった絵本ともいえる。