Elmer
McKee, David
Andersen Press
2007-09-25






『ぞうのエルマー』は1968年に生まれ、現在出版されているのは1989年に復刊した版。その後50カ国語あまりに訳され、これまでに200万部以上が売れた。

カラフルなパッチワーク模様のぞうのエルマーは、一度見たら忘れられないインパクトのあるキャラクターで、灰色のぞうの群の中でとりわけ目立つ。

Elmer was different. Elmer was patchwork.
Elmer was yellow and orange and red and pink and purple and blue and green and black and white.
Elmer was not elephant colour.
エルマーはちがいました。エルマーはパッチワークもようでした。
エルマーは、きいろで オレンジで あかで ピンクで むらさきで あおで みどりで くろで しろでした。
エルマーは ぞういろではなかったのです。

そんなエルマーは、仲間のぞうたちを微笑ませ、幸せな気持ちにさせる存在だ。でも、エルマーは、自分の肌の色がふつうと違っているために笑われているような気がしてならない。
ふと思いついて「ぞういろ」の木の実の汁を体中にこすりつけ、肌の色を隠して群れにもどる。誰も気づかない。ふだんの群れは笑顔があふれているのに、今日のぞうたちは退屈そうだ。
そのことにエルマーは耐えかね、思いがけない行動に出て、みんなを笑いの渦に巻き込む。
盛り上がったぞうたちは、「エルマーの日」を毎年祝うことを決める。その日、「ぞういろ」のぞうはエルマーみたいなパッチワーク模様になり、逆にエルマーが「ぞういろ」に仮装するのだ。

スイスの画家ポール・クレーの作品に着想を得たというパッチワーク模様のエルマーは、「”ふつう”でなくてもいいし、みんなと違っている方が楽しい」という生き方を、半世紀前から気負うことなく貫いてきた。
近年のイギリスでは「多様性」を体現するキャラクターとして、新たな脚光を浴びている。LGBTQ+運動や、子どもたちに多様性を教える活動のシンボルに選ばれている。そして、5月には絵本のストーリーにちなんだ「エルマーの日」のイベントが行われる。

作者のデビッド・マッキーは、1935年イギリスのデヴォンに生まれた。プリマス美術学校に学び、在学中から「パンチ」などの雑誌にまんがを書きはじめた。やがて絵本作家としてもデビューし、60年代から数々の作品を世に送り出した。そのうちの一冊が、68年の『ぞうのエルマー』だった。復刊以降ロングセラーとなり、40冊もの続編が出ている。
85歳になった2020年、子どもの読書を促進するチャリティー団体「ブックトラスト」の生涯達成賞を受賞した。

受賞に際してのインタビュー(「Book Trust」公式ホームページ)によれば、 エルマーの絵本は、60年代カルチャーを反映している。
「ビバなどの新しいビジュアルが登場した時代でした……スウィンギング・シックスティーズの頃、私は3人の子がいる若い父親だったので、本格的にそのシーンに登場していたわけではありません。でも考えてみれば、私も広告の仕事、それにもちろん絵本で60年代のイメージに貢献していたのです」

マッキー家には、当時のイギリスで盛んに出版されはじめた優れた絵本がたくさん置かれていて、親子でよく絵本を読んだという。
「うちではいつも、床に本を置いて、私は正面から、そして子どもの一人は片側、もう一人は、反対側、そして一人は反対側から逆さに本を見て読んでいました。子どもたちは逆さまでも完璧に絵を読み取ることができるのです。それに気づいたことで、絵にも影響を受けました」
実際、『ぞうのエルマー』では、「ぞういろ」に変装していたエルマーが自分をカミングアウトするシーンで、仲間のぞうたちが驚きのあまり宙を舞うシーンがあるが、この絵などはむしろひっくり返して見たくなる。

また、「絵本とは大人と子どもがシェアする本なので、読者が二重に存在していることになります。両方の読者のための絵本づくりをしたいし、子どもだけでなく大人にも気に入ってもらえたらうれしい」とも語っている。
絵本を読むときの大人の気持ちは、子どもに如実に伝わるものだ(というのを、私は子どもとも自分が好きになれる絵本しか読まないことの言い訳にしている)。エルマーの絵本は、大人も子どもも読むたびにポジティブでハッピーな気持ちになれる。

デビッド・マッキーは長年南フランスに暮らし、インターネットはなく、出版社とも郵便でやりとりする生活を貫いている。作品の映画化のオファーも断り続けているとか。
茶目っ気あふれる丸い目やがっしりした体型も、マイペースを貫く姿勢も、どこかエルマーに似ている。

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